中小零細の「優良企業」への投資手法
- 2020/8/17
- M&A
- 「スモールM&A」の活用術
小説やドラマで大ヒット中の池井戸潤氏による「下町ロケット」や「半沢直樹」など、金融や経済界で巻き起こる熾烈なビジネスの闘いは見ていて爽快ですね。
その主役ともなるのは規模が小さい企業がほとんどですが、優れた原石があるからこそ、伸びる可能性を秘めています。
そこで、多くの中小企業を見てきて感じた”優良”な企業についてお話したいと思います。
地方に数多く存在する、中小零細の「優良企業」
地域経済の衰退がよく議論になりますが、個々の企業に目を移すと、地方にはまだまだ中小零細の「優良企業」が数多く存在することに気づかされます。人口が減少しても、地方独特の文化や郷土料理等がそう簡単には廃れないことに似ているかもしれません。
ここでいう「優良」とは、決して純資産が多く、利益も安定している企業だけを指すのではありません。何らかの理由で業績は低迷していても、磨けば光りそうな特徴を持っている企業や、資金・人材などが投入されれば伸びる可能性がある企業を指します。経営資源の不足により、既存の枠内にとどまっている企業はかなり多いと感じています。
先日、「精密機械」の製造地として発展した地域に訪れました。地域の事業者数は最盛期の約半分まで減ったとのことでしたが、未だ世界トップレベルの技術水準を維持している企業は多数存在します。
某企業では工業製品の下請けだけではなく、個人向けの商品開発に乗り出すなど、変革の途上でした。周辺環境が悪化しても売上増加を狙う姿勢に、企業としての力強さを感じました。
また、それぞれの地域に必ず存在する「造園業」なども実に奥が深いといえます。業種的には建設業に分類されますが、当然ながら樹木の特性を把握し、管理ノウハウも必要となります。更に、剪定、竹垣、飛び石などを配置する空間プロデュース的な美術的センスに加え、害虫や雑草対策などの対策も求められます。
このように、広範囲な専門知識が必要であり、一朝一夕にできるようなビジネスではないと感じます。
業歴が長い企業であれば、多くの作品が資産、ブランドとして評価されることでしょう。
土木や建築と比べると、市場規模が一桁も二桁も小さいので目立ちにくいですが、従業員数名の植木屋さん規模まで裾野は広く、キラリと光る事業者が必ずいるはずです。業態転換の選択肢が多い業態でもあります。
上記以外にも、コアなファンが全国に広がる老舗和菓子屋、幾多の自然災害を乗り越えた果樹園、土づくりから徹底的にこだわる畜産農家、自然を修復する技術に優れる土木業者など、ポテンシャルを持つ企業は多数思い浮かびます。
6割以上の中小企業は後継者不足!?
良い売却案件というのは、潜在的な先にこそ存在します。相手と条件次第というケースが多く、交渉の過程においては、買い手のスタンス、人柄まで問われることもあります。初回のオーナー面談などは特に重要です。
いきなり過去の数字やバランスシートの不明点などの質問を立て続けにして印象を悪くしてしまうことは避けるべきです。M&Aはよく結婚にたとえられますが、お見合いの席でいきなり年収や資産状況を聞けば嫌われてしまうのと同じです。
また、それほど業績が好調とはいえない会社との交渉においては、どうしても上から目線で接してしまうことがあります。そのあたりは、売手も敏感に感じ取りますので注意が必要です。
売上規模が数十億円以上で、財務内容が良好な会社であれば、M&Aにおいて大きな失敗はないかもしれません。しかし、価格は高めに、回収期間も長めになります。一方、スモールM&Aにおいては、何かしら課題のある会社がほとんどです。その分、価格はリーズナブルで、リカバリーのスピーディーな実行が可能です。ここがスモールM&Aの魅力であり面白いところです。
2017年度の中小企業白書によれば、国内企業数は約380万社で、そのほとんどは中小零細企業です。また、そのうちの6割以上は後継者不足といわれ、母数は膨大です。
投資家が経験を積みながら、自ら動いて、意中の企業を発掘するような動きが有効的なのは、いうまでもありません。イメージする業界や予算が決まれば、日常を離れ、フラリと案件発掘の旅に出るのも良いかもしれません。出会いは思わぬところにあるものです。